【家に飾る名画】グスタフ・クリムト『接吻』

ここはいったいどこだろう?

2人がいるのは小さな野花が咲く崖の上。

白黒の長方形が散りばめられた洋服を着た男性と、赤や青の花柄のような洋服を着た女性が抱き合っている。

男性が両手でそっと女性の顔を包み、キスしようと顔を向けさせそうとしている。

女性は右腕を男性の肩に回し、左手は男性と手を取り合っているものの、ひざをついていて今にも腰がくだけそうだ。

なんてロマンチックな光景だろう。
二人は愛し合っている。

 

 

私たちはこの女性のように頬を赤く染め、うっとりと目を閉じる自分の姿を見ることはできない(そんなタイミングで自撮りなんて、いくらなんでもしないだろうから)。

しかしこの女性に自分を重ねてみると、途端に自分が経験した最も甘美な記憶を再び味わうことができるのだ。

男性の顔が見えないのもちょうどいい。
自分の好きな(もしくは好きだった)相手を想像することができる。

 

 

背景は黒が透けるように金色が重なっている。

暗闇の世界が二人の愛し合う熱で金色に染まり始めたところなのか、それとも少しずつ輝きを失い始めているところなのか、、、。分からない。

 

本作は2人が立っている場所が細くて今にも崩れ落ちそうな崖であることから(女性の足はすでに地に付いていない)、「愛」と「死」がテーマであると解説されている。

「愛と死は隣り合うもので、同時に存在してこそ輝きを増す」と言われたり、「最高の愛を死によって完結させたいと願う恋人」と解釈されていたりする。(『中野京子と読み解く 名画の謎 対決篇』中野京子著)

けれど身近に死を感じたこともなく、死に憧れも持っていない私たち20代の大多数には、この感覚を理解することは難しいのではないだろうか?

 

でも、死ではなく「終わり」なら理解できる。

いくつかの終わりを経験すると、全てはいつか終わるものだという諦めが頭の片隅に居座り続ける。

だからこそ、「ああ、今このときが一番幸せだ」と必死にその瞬間を噛みしめようとするのだ。

 

 

結婚後はどうだろう?

生涯添い遂げることを誓った二人にも終わりがくるのだろうか。常に揺れ動く人の心がどうなるかなんて、誰にも分からない。

来るとすれば、どうか死であってほしい。

 

 

至福の頂点を切り取ったこの絵は、ドレッサーの近くに飾ってみたらどうだろう。

毎日眺めるたびに、愛する人と今を過ごせる幸せを感じることができる気がする。

 

 

  • グスタフ・クリムト(1862-1918)

オーストリアの代表的な画家。『接吻(kiss)』1907-08に作成された。
サイズは180㎝×180㎝。ウィーン・オーストリア美術館所蔵。

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